ご挨拶 大会長  松原 長秀

第24回日本家族性腫瘍学会学術集会
大会長 松原 長秀
(尼崎中央病院)
第24回日本家族性腫瘍学会学術集会の大会長をおおせつかりました尼崎中央病院の松原長秀です。今回は田村智英子先生との二人会長ということで開催させていただきます。神戸での開催ということでは、第3回大会を1997年に湯浅保仁先生と野口眞三郎先生が開催されて以来2度目で、21年ぶりということになります。
学会のテーマについては色々考えましたが、結局単純な所に落ち着き、単語のリンケージLinkageと致しました。
我々の分野では家系内に集積する遺伝性腫瘍の原因遺伝子の位置を同定するのにlinkage analysisが多用されましたので馴染みのある言葉です。
社会のなかで人間同士のつながり(linkage)の細小単位が家族であり、時間をまたいで広げると家系となります。我々の学会では、その家系に集積性に発生するがんを研究対象としていますが、これまで対象にしてきた集積性の強いがんのみならず、集積性の弱いものも多く認識されるようになり、散在性のがんとの線引きが曖昧となってきました。
がん治療薬においては、最近遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の原因遺伝子に変異のある腫瘍に特異的に効く薬が開発されました。一方、一般の乳癌にも同様の変異を有するものがあるので、この薬の治療対象となります。大腸癌では、マイクロサテライト不安定性(MSI)陽性癌に、免疫チェックポイント阻害薬がほぼ特異的に奏功することが分かってきましたが、散在性大腸癌にもMSI陽性癌があるため、やはりこの薬の治療対象となります。したがって、これらの薬剤を使って治療するためには、遺伝性腫瘍の原因遺伝子変異、あるいはそれによってもたらされるDNAの変化(MSI等)を、診断されたすべてのがんについて調べざるを得ない状況になりつつあります。
一方、次世代シーケンスによる解析が安価になりました。その結果、一般の癌を対象にクリニカルシーケンスによって得られた遺伝子変異に基づいて、個々のがんに有効な治療薬の選択がなされるようになってきました。この検査からも、遺伝性腫瘍が(意図せず?)次々と診断される時代となっています。このように、がんの診断治療において、遺伝性がんと一般のがんの境界が曖昧になりつつある時代において、我々の学会の守備範囲も広くなり、果たすべき役割もますます重要になってきています。
今回は、この新しい時代を踏まえて、様々の専門分野の先生方に、最新情報のlectureをしていただけるように企画いたしました。できるだけ多くの話をしていただきたいため、それぞれのlectureの時間はやや短めとなっています。
また、当学会では近年会員増がつづいていますが、学術集会に参加される新旧の会員同士がしっかり交流をして、多くのつながり(linkage)を作っていただきたいと考えて、あえて、午前と午後に30分ずつのコーヒーブレイクを入れました。この交流を通じて、多くのlinkageが生まれ、新たな共同研究等が誕生することを期待しています。懇親会にも是非ご参加ください。
2017年は神戸開港150年目にあたり、さまざまの記念行事が行われました。神戸は震災を乗り越え、更に魅力的な街に生まれ変わっています。学術集会会場は神戸の人工島のひとつにあり、国際色豊かな場所ですので、ぜひ学会の外でも、神戸の町を楽しんでいただけたらと思っています。

ご挨拶 大会長  田村 智英子

第24回日本家族性腫瘍学会学術集会
大会長 田村 智英子
(FMC東京クリニック 医療情報・遺伝カウンセリング部/
順天堂大学医学部附属順天堂医院遺伝相談外来/国立病院機構岩国医療センター 家族性腫瘍外来)

このたび、松原長秀先生を補佐させていただく形で大会長を仰せつかりました。私自身は、家族性腫瘍診療について多々熱い思いはあるものの、学術集会運営開催となると役に立たないことばかりでしたが、参加される先生方に少しでも充実した時間をお過ごしいただければと切に願っております。
最初の全体の挨拶文は松原先生にお書きいただきましたが、私のこの文章はプログラムが固まってきた後で書いたものですので、そうした過程で松原先生と私が目指そうと思いましたことについて、少し書かせていただきます。

海外からの演者の先生方について
今回は、3人の演者の先生を海外からお招きしました。InSiGHTにおいて国際共同研究の中心的役割を担ってこられたGabriela Moeslein先生は、お若い頃に宇都宮譲二先生の元に留学されていたご縁がありますが、今回はJ-パウチの歴史をお話しいただく予定です。Suet Yi Leung先生は、リンチ症候群がepigeneticな異常でも起こりうることを発見したり、BRAF等の研究でも有名ですが、今回は大腸がんやポリポーシスの分子遺伝学についてご講演いただきます。そして、私の恩師のRobert Nussbaum先生には、遺伝学的検査などの様々な臨床遺伝学的知見をいかにがんの標準診療に組み込んでいくかについて語っていただくことにいたしました。臨床遺伝専門医の先生方なら必ずご存じの教科書『トンプソン&トンプソン遺伝医学』の筆頭著者であるNussbaum先生には、がんゲノム医療推進の中で今後混乱を呼びそうな遺伝性腫瘍関連遺伝子のバリアントの病的意義の解釈の問題についてもご教授いただきたいと思っています。

学会外の演者の先生方について
学会員の先生方のみならず、非会員の先生方にも教育講演をお願いしました。今年初めて本邦で認可になったPARP阻害剤の臨床評価の第一人者である関根正幸先生のお話は、非常にホットな話題と思います。また、疾患の遺伝子解析を幅広く手がけていらっしゃる松本直通先生に次世代シーケンサーによる遺伝性疾患解析の現状と課題についてお話しいただくほか、新しい原因遺伝子の探索を含め遺伝性大腸がんの様々な遺伝学的解析のご経験を岡﨑康司先生にご紹介いただきます。
さらには、臨床心理の立場から遺伝性腫瘍診療にかかわってくださっている井上実穂先生にも、初めてご登壇いただきます。遺伝性腫瘍領域の臨床心理の専門家の草分けであるDana-Farber Cancer InstituteのAndrea Patenaude先生が本年1月に他界されたことは本当に残念ですが、井上先生は日本におけるPatenaude先生のようなお立場の方で、今後、遺伝性腫瘍と臨床心理の両領域を橋渡ししながら活躍してくださることを心から期待しています。

リンケージをテーマとした企画セッションについて
今回、いろいろなつながりを盛り上げたいと考え、リンケージをテーマとした3つのセッションをもうけました。研究グループ連携セッションでは、研究者間、研究者と臨床家の間の有機的なつながりを模索してみたいと思います。また、患者さんやご家族などの当事者と、医療者や研究者がどのようにリンクするかを考えるセッションも設けました。当事者の皆様には、患者家族会のブース展示をお願いしただけでなく、学術集会に自由に参加していただいて、医療者、研究者との接点をより増やしていきたいと考えております。最後に、国際連携セッションでは、海外演者の先生や本学会トラベルグラント受賞者の方々に参加していただいて、臨床や研究における国内外のシームレスな連携を目指すために何ができるか討論してみようと思っています。いずれも最終結論には至らず今後に課題持ち越しとなる可能性も多々ありますが、将来に向けて何を考えればよいかが見えてくるだけでも大事な一歩と考えておりますので、皆様、積極的に議論に加わっていただければと存じます。
先日、他の先生と一緒にLi-Fraumeni症候群患者家族会主催の国際会議に初めて参加してきましたが、患者さん、ご家族、第一線の臨床家、研究者、遺伝カウンセラーなどが議論をしたりハグしたりして盛り上がり、立場を超えて話し合い刺激し合うことの意義を痛感しました。まさに、リンケージです。こうした場を日本でも増やしていくことができればと思っております。

変革の時代に、ビジョンをもって遺伝性腫瘍診療のあり方を考えていくことが重要
私が米国に留学した2000年頃、米国では既に遺伝性腫瘍診療は一般的な標準診療と認識されており、BRCA1/2遺伝子の検査なども健康保険適応で、遺伝カウンセラーのインターンとして修業する際にもがん領域での経験が必修でした。しかしそれから20年近く経過した現在でも、日本では、欧米では標準的に行われている遺伝性腫瘍の遺伝子解析や、遺伝カウンセリング、遺伝学的リスクに基づくサーベイランス、予防的手術などの要素がほとんど健康保険適応になっておらず、がんの遺伝性を考慮することが標準診療の中に十分に組み込まれていません。
欧米の遺伝性腫瘍診療はここ数年劇的に変化しており、リンチ症候群のスクリーニングによるがんの罹患率、死亡率減少のエビデンスは十分であることから、全大腸がん患者を対象としたリンチ症候群のスクリーニングは欧米では診療指針に記載された標準診療となっていますし、次世代シーケンサーによる遺伝学的検査の普及にともない、生殖細胞系列の遺伝性腫瘍関連の複数遺伝子を同時に解析する多遺伝子パネル検査や、がん治療方針選択のための体細胞遺伝子解析に並行して生殖細胞系列の多数の遺伝子を解析することも一般的になってきました。他疾患の診断で網羅的遺伝子解析を実施した際に遺伝性腫瘍の遺伝子の病的バリアントが見つかったら、積極的に知らせて健康管理につなげるべきとする米国の臨床遺伝専門医会(ACMG)の指針も提示されていますし、遺伝性腫瘍によく効く免疫チェックポイント阻害剤やPARP阻害剤などの開発も進みつつあります。
こうした変化の背景には、「個人や家族の遺伝学的情報を活かして、より適切ながん予防、がん治療を推進していこう」という大きなビジョンがあります。欧米に比べて20年以上立ち遅れている日本では往々にして、「遺伝カウンセリングが大事」「遺伝学的検査の説明は丁寧に、血縁者にも配慮して」などと目の前のことに追われがちですが、欧米の急速な変化を見ていると、私たちは10年先、20年先をにらんで、将来はひとりひとりに遺伝カウンセリングを行っている時代ではなくなるかもしれない、がんの遺伝性を調べる検査はコレステロールを測るのと同じくらい普通のことになるかもしれない、誰もが病気になる前に遺伝子を調べておく時代になるかもしれないといったことも想像しながら、がんの専門家や遺伝の専門家の役割分担が今とは違った形になることも視野に入れて、柔軟に診療のあり方を考えていくことが必要です。そしてその際には、誰がいつ何をどのように行うとしても、その大前提となる大きなビジョンをしっかり意識しておくことが肝要だと常々感じています。
遺伝性腫瘍には稀少なものから頻度の高いものまであり、がん種も様々ですし、発症時期も小児から高齢者に及びます。遺伝性腫瘍診療や研究の充実を目指すには、医科学のみならず、心理や法律、行政、倫理、経済などの面からの視点も必要です。それぞれの臨床家や研究者が担う専門領域は小さくても、皆が常に大きな視野でbig pictureをとらえる努力をしていくことで、なんらかの形で広がりが見えてくるのではと思います。

おわりに-本学会に育てていただいた立場から
私は、製薬会社にて基礎研究や臨床開発、学術の仕事を長く勤めた後、フルブライト奨学金を得て、NIH内にある米国国立ヒトゲノム研究所とジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院のジョイント課程で遺伝カウンセリングを学び、米国の遺伝カウンセラーの認定資格を取得いたしましたが、実はこうした現在の私の仕事の発端は、本学会から始まっています。それもまだ「家族性腫瘍研究会」の頃のことでしたが、薬学部の卒業研究で国立小児病院小児医療研究センターの水谷修紀先生にご指導いただいたご縁から、恒松由記子先生にも顔を覚えていただき、国立小児病院の患者さんやご家族の会のお手伝いなどさせていただく中でLi-Fraumeni症候群家系の方々にお目にかかり、さらには、恒松先生率いる家族性腫瘍研究会の倫理委員会ガイドライン作成ワーキンググループに入れていただくに至りました。また、1998年、宇都宮譲二先生のご尽力により淡路島で開かれた第1回の家族性腫瘍カウンセラー養成セミナー(現在の家族性腫瘍セミナー)のお手伝いをさせていただく中で故・武部啓先生にも多々ご指導いただき、2000年、武部先生、恒松先生の推薦状をいただいて何とか米国の大学院の入学試験に合格、私の留学が実現いたしました。留学に際しては、故・馬場正三先生にも、医学英語をしっかり勉強するように何度も励ましていただいたことが思い出されます。帰国後は、恒松先生がいらっしゃった国立成育医療センターの遺伝カウンセラーのポストを得ることができ、また、留学前から何度もお声がけいただいていた前理事長の樋野興夫先生のサポートのもと、恒松先生とともに順天堂大学の遺伝相談外来もスタートすることができました。このように、日本家族性腫瘍学会の先生方のご支援があって、今の私がおります。まだまだ学会に恩返しするには実力が足りませんが、本学会の先生方には本当に感謝しております。今回の大会を通じて、私が本学会からいただいた沢山の知恵とエネルギーを、先生方と共有させていただければと存じます。

追伸-神戸は食べ物が美味しいです
今回の学術集会は、松原先生のいらっしゃる神戸で開催いたしますが、神戸で何よりも楽しみなのが、パンやスイーツなどの美味しいものの数々です。この件にかけては、兵庫医科大学下部消化管外科教授秘書の吉川さんや事務局トータルマップの飛松さんが、地元グルメ魂を発揮して、美味しいものを沢山集めてきてくださいました。モーニングセミナーでも美味しいパンの朝食をお出しする予定ですので、早朝ですがどうぞふるってご参加ください。その他、いろいろと名物スイーツや美味しいコーヒーも出ますので、皆様どうぞ楽しんでいただければと思います。
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第24回 日本家族性腫瘍学会学術集会
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